町田くんの世界 感想

どうも、虚無です。

 

今回は川崎皇輝主演のミュージカル「町田くんの世界」の感想を書きます。

 

<あらすじ>※公式HP引用

物静かでメガネ。そんな外見とは裏腹に成績は中の下。アナログ人間で不器用。なのに運動神経は見た目どおりの高校生、町田一(はじめ)。
弟と妹4人の世話をしながら間もなく出産する母親を支え、家族全員から愛されている。
人間が好きで、その言葉と行動でみんなを変えて行く町田くんは、周りの人たちは気付いたら好きになってしまうような「人たらし」。

ある日、授業中に怪我をしてしまった町田くんが保健室に行くと、そこに授業をサボっていた同級生の猪原さんがいた。
猪原さんは彼の傷の手当てしてくれたにも関わらず、「私、人が嫌いなの」と言い放ちその場を去る。町田くんは彼女がなぜ周囲を拒絶しているのかが気になる。
それから間もなく、町田くんは猪原さんが街中でナンパされているところに遭遇する。思わず駆け出し「僕の大切な人なんです」とナンパを阻止する町田くん。「大切な人だよ。クラスメートだ」と紛らわしい言い方だけど、まっすぐに心配してくれる町田くんを猪原さんは強く意識し始める。
二人の距離は徐々に縮まっていくのだが…。

<ストーリーについて>

かなり大雑把にストーリーの内容をまとめると、町田くんと猪原さんが出会ってから二人が恋愛関係に至るまでの過程を主軸に、問題を抱えた人達と町田くんが関わることでその人たちも良い方向に進んでいくことを取り上げたお話です。

 

町田くんは「人類みな家族」の思想の下に行動している人なので、物語の中盤くらいまで町田くんは自分に好意を寄せる猪原さんの気持ちに中々気付きません。ある日、町田くんは幼稚園の頃の先生に遭遇し、婚活に失敗して結婚写真のお相手役がいなかった先生のために自分が新婦の代わりになって結婚写真を撮ります。当然町田くんにとってはその行動に下心なんて無いので、何も考えず猪原さんにその結婚写真を見せるのですが、猪原さんは自分以外の女性と町田くんが結婚写真を撮ったことにショックを受け町田くんに顔を見せなくなります。町田くんは猪原さんが自分を避けていることにひどくショックを受けますが、同時に猪原さんに対して他の人達とは違う特別な感情を抱いていることに気付きます。

 

町田くんはこれまで自分の周りにいる人たちは皆家族だと考えていました。皆家族だから誰かを特別に扱うのではなく皆に平等な愛を与えていました。しかし町田くんは猪原さんが自分の前からいなくなりショックを受けたことで初めて「猪原さんは他人なんだ」と気付きます。(ここのシーンが本当~~~~に良かった)人間が大好きな町田くんにとっては皆が家族だから、他人である猪原さんには「嫌われないように」ではなく「好きになって貰えるように」と感じるし、今までは人に心を与えていたのに他人の猪原さんに対しては心が欲しいと思うようになります。「他人」という言葉には普通冷たいイメージがありますが、町田くんの世界ではこんなに純粋で清らかな意味が付与されるんだと感動しました。

 

町田くんがなぜ人にここまで思いやりを持って接してるのかということについて「頑張ってる人を哀れんだりしないし、頑張ってるから人が愛おしい」と言っていたのですが、なんだか自分が想像していたよりもっと崇高なところに町田くんの行動原理があるんだなと思いそれもまた感銘を受けました。何か問題を抱えてる人に親切に振る舞う時って僅かでもその人を下に見たり哀れむ心があると思うんですけど、そもそも町田くんにとってその人は「問題を抱えている」のではなく「頑張っている」から家族のような気持ちでその背中を押してあげたくなるのかなと思います。

<演出について>

ステージの真ん中ににデカいお家?アスレチック?みたいなセットが置かれていて、基本的にそのセットの中でお話が進んでいくという感じでした。ひとつの大きなセットが学校や家やお店に見えるような道具の使い方や構成はすごいなと思ったし、けっこうな頻度でシーンが移り変わるのに全部十数人のキャストでセットの移動など全部やってたみたいなので場面転換とか結構大変だったんじゃないかなと思います。(でもそれを全く感じさせないスムーズさは見事でした)あと、出演しないキャストが袖にはけるのではなくステージの脇で座って待機してたのが珍しかったし、効果音をキャストで歌ったりしてたのも面白い演出だなと思ったりしました。演出家のウォーリー木下さんの舞台は去年ルーザーヴィルで観劇経験がありますが、小物の使い方が独特(クッションを町田くんの兄弟に見立てたり)なところとか、重要なワードをあえて演者本人に言わせないようなところは町田くんの世界にも共通してるような気がしました。

 

最後町田くんが猪原さんに告白する場面で回転するデカアスレチックセットの中で町田くんが猪原さんを探そうと奔走するシーンがあったのですが、奔走している様が町田くんが猪原さんへの気持ちに気付くまでの一年間の過程と重なってるような気がして、これまでの町田くんと猪原さんの思い出が走馬灯のように蘇ってきました。あと、雨の日に町田くんと猪原さんが景色を眺めるシーンでは暗闇に浮かぶセットを照明に照らして雨の景色を表現していたのですがとても美しかったです。

 

また、生演奏で演者がバリバリに歌上手いのが本当に最高でした。町田くんと猪原さんの歌はさすがに他のキャストと比べると粗削りな部分もありますが、その粗削りなところに主役らしさがあるかなとも思いました。

<総括>

町田くんの世界を見て私は心があったかく優しい気持ちになったのですが、現実には考えられないほど優しさと思いやりに溢れた話だからこそ感動したのかなと思います。なぜなら町田くんのように周りから愛されていて人徳の高い人間なんて恐らく現実世界にはいないので……

 

町田くんは問題を抱えていた猪原さんに平等な愛を与えることで猪原さんの世界を照らし、町田くん自身にとっても恋愛という新たな世界を経験するきっかけになります。猪原さんだけでなくこの物語に登場する全ての人達が町田くんの言葉によって世界が変わり良い方向に向かっていきます。町田くんは劇中に「気持ちは世界 世界は気持ち」という台詞を言います。町田くんのように人間が大好きで常に思いやりを持って行動することなんて到底できませんが、気持ち次第で自分の見える世界が明るく晴れたものにも暗く閉鎖的なものにもなるのなら、逆説的ではありますが自分の周りにいる人達をもう少し愛おしく大切にしていきたいなと思うところです。